冒頭の一文でお気づきの方も多いと思いますが、今回は作刀に由来した言葉を集めてみました。
【相槌を打つ】相手の話に調子を合わせて応答する。「自慢話に適当に︱」
引用元:『広辞苑』 第七版 岩波書店 9ページ
大人からこどもまで広く浸透している言葉ですね。広辞苑の例文のように、相手の話を聞き流しているシーンによく使われたりしますが、インターネットで検索をすると「相手が話しやすいように返事をしたり、うなずいたりすること」と解説しているサイトもあります。実際、師匠と弟子の槌がぶつからないよう、お互いに呼吸を合わせて打つことを考えると、相槌は本来、相手の話をきちんと聞いて打つべきものなのでしょう。
ちなみに相槌は「打つ」ですが、合いの手は「入れる」です。お間違いのないよう、ご注意ください。
ここでクエスチョン、相槌は刀作りのどの工程で打つのでしょうか?
たん︲れん【鍛錬・鍛練・鍛煉】①金属をきたえること。≪日葡≫②修養・訓練を積んで心身を鍛えたり技能を磨いたりすること。~後略~
引用元:『広辞苑』 第七版 岩波書店 1856ページ
正解は鍛錬でした。右記にある通り、「鍛錬」と「鍛練」は併記されており、②の意味で「鍛錬」と書いても間違いではないようです。
とん︲ちん︲かん~中略~ ①物事がゆきちがい前後すること。つじつまの合わないこと。「︱なことを言う」②とんまなこと。また、そういう人。
引用元:『広辞苑』 第七版 岩波書店 2143ページ
こちらも刀鍛冶が鍛錬する様子が由来となった言葉です。広辞苑には、師匠と弟子が槌を交互に打つため、音が揃わないところから、という記述があります。同じ鍛錬の様子を、「相槌を打つ」では調子を合わせていると捉え、「とんちんかん」では調子が合っていないと捉えているのがおもしろいですね。とんちんかんの由来は「下手な弟子の相槌はズレた音がするから」という説もあります。上手に相槌を打ったつもりがとんちんかんだった、なんてことにならないよう気をつけたいものです。
続いては、作刀の要ともいえる「焼き」です。刃(やいば)は、もともと焼刃(やきば)でした。発音が難しいので、「き」が「い」になり(イ音便)、漢字も一文字になりました。
【焼きを入れる】①刀の刃を焼いて鍛える。②私刑を加える。拷問する。③刺激を与えて、たるんでいるのをしゃんとさせる。
【焼きが回る】①刀の刃などを焼く時、火が行きわたり過ぎてかえって切れ味が悪くなる。②年を取るなどして能力が落ちる。
引用元:『広辞苑』 第七版 岩波書店 2938ページ、2938ページ
……なかなか厳しい言葉が多いですね。作刀において、刀の強度を高め、刃文や反りを生み出す「焼き入れ」は、特に重要な工程とのこと。その難しさや厳しさが言葉にも反映されているのかもしれません。
刀作りは焼き入れで終わりではありません。鍛冶研ぎ、下地研ぎ、化粧研ぎなど、研磨だけでも何段階もあります。いくつもの工程を妥協なく積み上げ、完成する刀。それを握るにふさわしい剣士となるために、業だけでなく、知性や精神もしっかりと磨いてまいりましょう。
「剣士もいいけど、刀鍛冶も素敵!!」と思った方、現在、刀鍛冶になるには文化庁発行の「作刀承認」が必要です。苦難は多いでしょうが、日本文化伝承の一翼を担えることは確か。ご興味のある方はぜひ。
copywrite:岡田知美