単刀直入に伺います。あなたは日本刀が由来の言葉(ことわざ、慣用句など)をいくつご存じですか?
こんな質問を抜き打ちにされても、なかなか答えられないかもしれません。逆に、「控えめにいっても、30語以上は軽く出てきます」といった強者もなかにはいることでしょう。
大日本居合道連盟では、初段の昇段審査・学科試験で刀の部位を答える問題が出題されます。ですので、真剣に学んだ初段以上の連盟剣士であれば、鍔、鎬など、刀の部位を使った言葉がまずは思い浮かぶのではないでしょうか。
例えば……
【鍔迫り合い】①互いに打ち込んだ刀を鍔で受け止めたまま押し合うこと。②互いに激しくせり合うこと。「︱を演ずる」
【鎬を削る】①(切り合う時、鎬が互いに強く擦れて削り落ちるように感ずるからいう)はげしく切り合う。~中略~ ②(実力の似た者同士が)はげしく競い合う。「年末商戦に︱」
引用元:『広辞苑』 第七版 岩波書店 1958ページ、1322ページ
これらは刀同士でせめぎあう様子を、刀の部位に着目して表現した慣用句です。どちらも刀言葉らしい、緊迫した雰囲気が読み取れます。また、「鍔」は日本刀や剣術に詳しくない方にもよく知られた部位なので、どなたにも由来するシーンが想像しやすいのではないでしょうか。
ちなみに、インターネットの記事などで、「鍔迫り合い」の表記を「鍔競(り)合い」としているものも見受けられますが、広辞苑に掲載されているのは「鍔迫り合い」のみです。
【元の鞘(さや)へ収まる】いったん離縁した者または仲違いをした者が、再び元の仲にもどる。
引用元:『広辞苑』 第七版 岩波書店 2913ページ
最近では「元サヤ」と略されることの多い慣用句です。ほとんどの方は由来をご存じとは思いますが、カタカナで「サヤ」とした表現を見かけるにつけ、サヤ=鞘と知らない方もいるのでは、と少々心配になります。
【切羽詰まる】《自五》物事がさし迫る。全く窮する。最後のどたん場になる。「︱・っての言いのがれ」
引用元:『広辞苑』 第七版 岩波書店 1643ページ
これはもう、刀、特に刀の部位に詳しくないと、どんな様子を表しているのかわからないように思います。剣士の皆様には釈迦に説法ですが、念のために解説しますと、切羽が詰まると刀が抜けず戦えない、というのが由来です。広辞苑の「全く窮する。」という解説文からも、かなり追い詰められていることがよくわかります。これと似たような状況を示す慣用句で、もうひとつ、広く知られているものがあります。
【抜き差しならぬ】身動きできない。どうにもならない。のっぴきならない。~中略~「︱状況に陥る」
引用元:『広辞苑』 第七版 岩波書店 2248ページ
武士が刀を抜くことも、抜いた刀を鞘に差すこともできない、いわゆる膠着状態です。急場凌ぎもままならない、危機的な場面なのでしょう。
ここでひとつ疑問なのですが、「切羽詰まる」と「抜き差しならぬ」、はたしてどちらがより困った事態に陥っているのでしょうか。ニュアンスは若干異なるような印象を受けるものの、辞書を頼った付焼刃の知識では判断しにくく……皆様はどう思われますか? ご意見などございましたら編集部までお寄せください!!
ちなみに、本コラムの文章には、刀が由来となった言葉・ことわざ・慣用句をいくつかちりばめてあります。ぜひ見つけてみてください。
copywrite:岡田知美